皆さんは2020年と聞くと、何を思いうかべますか。いろいろあるでしょうが、もっとも多くの人が「東京オリンピック」と答えるのではないでしょうか。特に首都圏では、オリンピックを見据えて道路やマンションなど建設ラッシュが続いています。いわゆる不動産バブルと言っても過言ではない状況です。
しかし、オリンピックが終わればこれはどうなるのでしょうか。建設した多くのものが使われなくなり、価値が暴落するかもしれません。これも「2020年問題」です。
今回は、「2020年問題」とはどういうものか、そしてなぜ起こるのか。ITエンジニアにもリスクがあるのか、といったことについて取り上げます。
「2020年問題」はなぜ起こる?
2020年問題とは
2020年問題がなぜ起こるのかということを論じる前に、まずは改めて「2020年問題とはどういったものなのか」ということについて見ていきましょう。
2020年問題とは、以下のような2020年を境にして表面化すると予想されているリスクのことを指します。
- オリンピック終了後の不動産価値の下落
- 少子高齢化と団塊の世代の引退による労働人口の減少
- 学習指導要領の改訂などによる教育方針の改革と転換
現在、東京オリンピックの開催を控え、特に首都圏では建設ラッシュや不動産価格の上昇が続いています。これは政府による低金利政策と2019年に予定されている消費税の税率アップを見越した動きという一面もあります。この状況は、ある意味で不動産バブルと言っても良いかもしれません。しかし、オリンピック終了後は、消費税の税率アップやオリンピック需要の終了も相まって、不動産価値が下落すると見込まれています。
また、団塊の世代の引退による労働人口の急激な減少に対応するための働き方の転換、そして、教育方針の転換など社会の根幹部分に関わる大きな変更があり、それに対する対応が必須となると予想されます。
こういったことが2020年前後に一気に訪れると言われているのです。
オリンピックの影響
東京オリンピックが2020年に開催されるということでの2020年問題とは具体的にどういうことでしょうか。近年のオリンピックといえば、商業的に成功し、多くの利益を開催国にもたらすというもののイメージがある方も多いと思いますが、そうではないのでしょうか。
オリンピックの影響によって発生している、もしくはすると考えられる事柄には以下のようなものがあります。
- 建設ラッシュによる人員不足と建築費用、資材の高騰
- オリンピック需要を見込んだマンションや不動産に対する投機的投資
少し考えてみても、現在、オリンピックによってさまざまな影響が出ています。
建設ラッシュでは、東日本大震災の復興関連の事業進捗も影響を受けました。また、不動産の高騰を見越した海外からの投資目的の購入等も多くなっています。
このように、オリンピックを踏まえてさまざまな動きが起こっています。
2020年問題で起こりうるリスク
起こりうるリスクとは
先ほども少し触れましたが、2020年問題による起こりうるリスクには以下のようなものがあります。
- オリンピック需要の終了による不動産バブルの終焉
- 建設業界の人員飽和による雇用の停滞
- 少子高齢化、団塊の世代の引退などによる労働力不足
- 段階の世代の引退による社会保障費の増大と多死社会の到来
- 教育分野での改革に伴う対応の困難さ
これを整理して説明しましょう。まず東京オリンピックは2020年に開催されることになっていますが、これが終了すると不動産などのオリンピック需要、建設ラッシュは終わります。したがって、不動産価格は下がるでしょうし、今まで仕事をしてきた建設労働者は不要となります。
また、2020年ごろには、ちょうど団塊の世代が引退を迎えると同時に、少子高齢化がさらに進展します。そのため、労働人口の減少と労働力不足が深刻になります。
加えて、団塊の世代の引退で社会保障費が増大して少ない労働人口で多数の高齢者を支える社会となります。もう一つ、教育分野でも2020年には学習指導要領の改訂があり、「プログラミングの必修化」「英語教育の改革」などさまざまな変更が予定されており、その対応が課題となっています。
このように、2020年前後には、社会でさまざまな変革が起きることが予想されています。
IT分野でのリスク
改めて2020年問題で発生する可能性があると考えられているリスクにはどういったものがあるのかお分りいただけたのではないでしょうか。今度は、IT分野に着目して、どういった課題とリスクがあるのか見ていきましょう。
IT分野でも2020年ごろにさまざまな問題が発生し、それに直面することになると言われています。例えば、以下のようなものがあります。
- IT技術者の不足
- AI技術の進展でなくなる仕事が出てくる
経済産業省の予測では、2020年にはIT技術者が最大で36万9000人不足すると予測されています。しかし、IT関連技術のニーズはさらに増すことは確実です。
そういった中で、いかにしてIT技術者を育成し確保するかがとても重要であり、課題となっています。
また、同じIT分野では、少し以前になりますが2014年に英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授によって予測された「今後10~20年でなくなる仕事」というものがあります。それによると、AI技術の進歩により人間がこれまで行ってきた仕事がAIにとって変わられるため、多くの仕事がなくなるとのことです。
幸い、ITエンジニアと思われる仕事は入っていませんでしたが、「データ入力作業者」という記載はありました。つまり、単純作業者は例えパソコンを使っていても不要になる可能性があります。「一般事務」「オペレータ、コールセンター」など、入力業務や資料作成の一部にパソコンを使用している場合も同様です。これは既に登場し活躍の場を広げているRPA(Robotic Process Automation)の性能向上も関係しているでしょう。
このように、IT化の時代に対応できない失業者が多く発生してしまうというリスクがあります。
リスクを乗り越えるためには
ここまで、2020年前後に発生するリスクについて見てきました。どのようなリスクがあるのか十分理解していただけたのではないでしょうか。私たちは、これらを乗り越えていくためどうすれば良いのでしょうか。
リスクを乗り越えるために政治は何をすべきか
2020年のリスクを乗り越えるために、まず政府はどういった対策を行うべきなのでしょうか。例えば、以下のようなことが考えられるでしょう。
- 育児、介護などで離職した人材を多様な働き方によって労働力として使えるようにする
- AI技術の進展や建設ラッシュ終了による余剰人材の再教育
- 健康保険制度の一元化など社会保障制度の抜本的改革
- IT人材の育成と活用の仕組みの構築
例えば、政府が行うべきことは2020年問題の発生時にいかにショックを低減させるか、その方策を検討・実施することです。
労働力が不足するのであれば、育児や介護などによってフルタイムで働けない女性に対してテレワークなど多様な働き方を実現することによって、労働力としての活用をさらに進めるでしょう。
また、AIによって仕事がなくなる人材が増えることが予想される今、人材の再教育と雇用、人材の流動化などの施策を進める必要があります。
さらに、特に国民健康保険制度が本年4月から従来の市町村に加えて都道府県も責任主体となるなど、制度の安定運用を目指しての改正が行われますが、本来であれば自営業の方が加入する国民健康保険に加えて、大企業に多い組合管掌健康保険や中小企業の協会けんぽ、公務員の共済組合などを一元化し、現行の国保のみで支える体制から支える側の体力を増やす必要があります。
テレワークの検討など、すでに進められ始めているものもありますが、上記の事柄を国は2020年問題を念頭にさまざまな改革を順次進めていくべきではないかと考えられます。
リスクを乗り越えるために個人が出来ることは
では、こういった2020年問題に対して、個人が出来ることはあるのでしょうか。例えば以下のようなことが挙げられます。
- AIにとって変わられにくい技術を習得する
- 企業にとって価値の高い人材となる努力をする
- 自ら主導的に新しい働き方を考える
個人で出来ることで最も大切なことは、「リスクを認識し、どのようにすべきか自分で考える」ことです。これが出来れば、自ずとどうすれば良いのかが見えてくるでしょう。
例えば、ここで掲げた「AIにとって変わられにくい技術を習得する」というのも一つです。単純な事務や経理などはAIにとって変わられる可能性があっても、カウンセラーやクリエイターのような自ら考える、創造する仕事はAIには難しくなります。
ITエンジニアで言えば、自分が考えているアイデアをAIが形に出来るのにはもう少し時間が必要でしょうし、世に溢れている様々なサービスをどのように組み合わせてビジネスに役立てるかを考える事も人間が行う必要があります。IT業界の中でも、いわゆる「作業者」にならず、課題をITで解決するためのITエンジニアとして、行動するよう心がけましょう。IT業界の動向や、現場で何が求められているのか、を常に考えることが必要です。
究極的に言えば、機械が人間の生活を全て支え、人間は遊んで暮らす、という未来が待っているのかもしれませんが、それは2020年問題よりもっと先に待っている未来像の1つです。まずは、「自分にはどういった可能性があり、何を伸ばせば生きていけるのか」ということを考え、行動を起こすことが大切でしょう。
まとめ
いよいよ2年後の2020年に迫ってきた東京オリンピック。しかし、そのオリンピックの陰で「2020年問題」というものが取りざたされています。2020年問題とは、先にも説明しましたが、いわゆる以下のようなものです。
- オリンピック終了後の不動産バブルの終了による市場の混乱
- 少子高齢化と団塊の世代の引退による労働人口の減少による労働力不足
- 学習指導要領の改訂などによる教育方針の改革と転換
こういった問題に対して、私たちが出来ることにはどういったものがあるのでしょうか。それは「リスクを認識し、どのようにすべきか自分で考える」ことです。このことを念頭に置いた上で、自らの価値を理解し「AIにとって変わられにくい技術を習得」「企業にとって価値の高い人材となる努力」といったことを重ねることでしっかりとリスクに対応することが出来るはずです。
2020年問題がどういうものか、そしてどういったリスクがあり、どのように対応すれば良いのか。しっかりと理解した上で、大きく構えて2020年を迎えましょう。