「世の中そんなに甘くない」という言葉は「思い通りにはいかないものだ」と同じ意で事あるごとに使用され、時には何をやっても上手くいかない自身を慰める都合の良いエクスキュースとなるのです。
大多数の人が本当の意味での「世の中そんなに甘くない」を痛感するのは学業を修め社会の荒波に放り出されてから。その中の、ほぼ全員が「もっと勉強していたら良かった」「努力が足りなかった」ともう取り返しのつかない過去を嘆くのです。
社会に出るや否や、自己研鑽の必要性を痛感するも「喉元過ぎれば…」とばかりに、ついつい自分に甘くなってしまうのが人間の逞しさであり、最大の弱点でもあります。
かつて、かおを合わせれば「勉強しろ」と事あるごとに捲したてるのに、家にいればビールを飲みながらテレビに興じている父親の姿を見て「大人ってズルいな」と感じていた人も少なくないと思います。
もちろん仕事にもよりますし、家族のために仕事を頑張っている父親たちの束の間の安らぎの時間を全否定しているわけではありません。
しかし、日本経済がこの四半世紀のなかで乱高下を繰り返しながら沈んでいったまさに真っ只中にいた父親世代の社会人人生が順風満帆だったはずもなく、「あの時もっと努力していれば」という後悔の念に苛(さいな)まれている人たちも少なくないはずです。
年月が過ぎ、あの時の父親に近い年齢に差し掛かった今、目の前の物はテレビからパソコンやモバイル端末に変わったかも知れませんが、あの時、ややも反発の目を向けた父親と同じことをしていませんか?
もし機会があれば、社会の酸いも甘いも身を以て経験した父親と仕事の話でもしてみませんか。
きった、あの日あの時と同じように「勉強しろ」という言葉が返ってくると思います。学校に通っていたときよりも、大人になってからの方が大切なのだと…
ITエンジニアに特化したエージェントに話を聞くと、テクノロジーが日進月歩でしかも流行り廃りの激しいIT業界は、日々の研鑽努力を怠れば立ちどころに置いていかれる世界であるにも拘らず、驚くほど「勉強していない」人が多いのだそうです。
生来の怠け者ならば、ITエンジニアに向いていないと遅かれ早かれドロップアウトする運命にありそうですが、何だかやる気の起きない人は、もしかすると、日々の仕事に忙殺されて「求められる人材」、「なりたい自分像」が定まっていないことも大きな要因かもしれません。
そこで、ITエンジニアに求められる人材像について考えていきます。
「勉強し続ける人」こそITエンジニアとして成長できる
2016年のIoT元年、AIの劇的進化、2020年の東京五輪などIT人材は今猫の手を借りたいほど欲しい状態です。この間に、IT時代の黎明期に管理職だった人材は続々と引退していくため、人手不足、なり手不足の問題は深刻の度を極めつつあります。
じゃあ、IT業界は就転職市場でおいしい業種なのか?と言えば、スキル不足の人間を採るくらいなら現有勢力で乗り切ろうとする会社の方が多いようです。
それはさておき、IT業界が深刻な「人材危機」の最中にあるにも拘らず、IPA「IT人材白書2013概要」の調査は、「業務時間外に自主的に勉強することはあまり無い」の回答が、他の年代と比較して、20代の割合が一番高いというショッキングな結果を報告しています。
つまり、いくら時間があっても勉強したりないほどの知識とスキルの吸収が必要な若いITエンジニアほど学んでいないという事実は、日本のIT業界が遠からず凋落のときを迎える事態を招きかねないほど憂慮すべき問題です。
また、同じくIPAの2010年度の調査では、企業が求めている人材と、教育者が育てたい人材像のギャップの大きさに驚かされます。
例えば、「今後10年間に重要となるスキル」では、企業側で重視している項目を見ると、技術面では、「上記分野を横断する技術力」、技術面以外では、「顧客業務や業務分析に関する知識」「プロジェクトマネジメント能力」など、高度なスキルや教育機関では学べないことが重視されています。
この調査で浮き彫りになったことは、企業側からすれば、学校で学ぶ理論や知識は基礎学力として決して軽視しているわけではないけれども、使える人材の要件ではなく、本当に必要なスキルは社会人になってからOJTや主体的な勉強を通じて身に付けるものと捉えていることを見て取ることができます。
したがって、企業側の求める人材は、「学ぶことのできる人」、「勉強し続けることのできる人」であり、このような人材こそが、ステップアップを重ねていくことができる「人財」として育っていくのです。
IT部門が求める人材とは?新しい時代に対応する10のスキル
(参照 IT部門が求める人材とは–新しい時代に対応する10のスキル – ZDNet Japan)
企業向けIT関連ニュースや事例、ブログを配信しているZDNet JapanにITエンジニアとして求められる人材とスキルについての記事がポストされていたのでご紹介しましょう。
アメリカらしいと言うべきでしょうか、日本で見られるビジネス書にではなかなかお目に罹れない視点で書かれた興味深い記事です。日本におけるIT部門が求める人材像も、これを後追いし、当たり前」となっていく日もそう遠くないかも知れません。
司書の専門知識
ビッグデータが軌道に乗るにつれ、データを集計して、それを独自の方法で見ることにより情報の本質を探るという能力は、極めて重要になってきている。
音楽の才能
音楽は、高度に数学的で論理的な作業になる場合があるゆえ、企業は、音楽の訓練を含む多様なバックグラウンドを持つ人々を新たにIT部門に採用しようとしてきた経緯がある。
文章と会話の高いスキル
IT担当者がビジネスに参加して、自分たちのしていることの価値を平易な言葉で説明するよう求められることが多くなっている。
創造的な問題解決
企業は、型にはまらない考え方をして、新鮮なアプローチを考えつくことのできる新入社員を求めている。
外国語のスキル
今日の企業の多くは、グローバルに活動しており、あらゆる分野で、複数の言語でのやり取りができる就職希望者が強く求められている。
メインフレームのスキル
スピードと信頼性について言えば、メインフレームはいまだに「クラス最高」だ。
多くのベビーブーム世代の人々が退職を考えている中、ITのカリキュラムでメインフレーム技術を教える大学の数は世界中で増加している。
音声ベースのアプリケーションのスキル
音声アプリが重要な役割を担うようになっている状況にあって、企業が音声を活用するためには、音声ベースのアプリケーションを理解し、プログラミングできるIT担当者が必要となる。
意欲的な姿勢
ITは変化し続ける分野であり、困難な問題を解決することが常に問われるからだ。「必ず道はある」という姿勢を表す就職希望者には、雇用者から肯定のうなずきが得られるだろう。
交渉スキル
トップクラスのITプロフェッショナルは、強力な仕事上の関係を作り、全員にとってプロジェクトが成功となるようにする方法を見つけることができる。このような協力関係を仲介できる人こそ、雇用者が求めている人物だ。
プレッシャーを受ける状況での冷静さ
雇用者はIT部門の就職希望者に対し、プレッシャーの中でも冷静さを保ち、落ち着いていられる人物であることを期待する傾向がある。
最後に確認して欲しいポイント
勉強から逃げている子供たちが並べる口上である「何で勉強しなきゃいけないの?」という言葉に対して、ほとんどの大人は聞く耳を持たず「将来のためだ」と一蹴するはずで
す。もしもあなたが、大人だからこそ勉強しなければならないとたゆまぬ努力をしていたならば、子供たちはその言葉の説得力に納得し自らペンを握ることでしょう。
子供たちにとっては、「なりたい自分」のために、大人にとっては「自分の将来」のために。学びに終着駅はなく、学び続ける先に未来が開けてくるのです。