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人手不足?IT技術者が足りない日本の現状について考える

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2017年07月24日

ITの発達は、一人一台が当たり前となった携帯電話(スマートフォン)やPCによって全世界へ瞬時の通信を可能にしました。

ITの発達は人間がこれまでに思い描いてきた世界への認識を一新させることになりました。例えば現段階で携帯電話を持っていても電話をするくらいでしか使っていないお年寄りと、PCやタブレット、スマートフォンを使いこなし、仮想空間での世界とのつながりが当たり前になっている10代や20代では、世界に対する認識が明らかに異なります。

ITの発達によって人類が享受した利便性は挙げればキリがありません。もちろん利便性ばかりにとどまらず、ITは、流通業や製造業でも驚くべき効率化と生産性の向上と技術革新をもたらしました。

多くの作業工程が自動化され、今では人気のない工場さえ存在しています。中には、人間の職人技とも思える技術を忠実に再現している機械もあります。

機械と人間の違いは当然ながら生産能力です。だからこそ機械の発達によって人間の肉体のみでは不可能だった大量生産、大量供給が可能になっているのです。工場の様子ひとつ見るだけでも、技術革新は驚くべき速度で進んでいることが分かります。

しかし、ITによってもたらされた効率化と技術革新によって、消費者が安価に商品を入手できるようになったのと同時に、多くの雇用が一気に消失したことも事実です。またITによる流通の発達によって、人気商品は一部の人間が流通を抑えてしまい価格が高騰してしまう事態が発生しており、効率化と技術革新は雇用のみならず、消費者にとっても幾つかのデメリットを生み出します。

本来、人の生活を便利に、豊かにするはずだったITや技術革新が、多くの人の仕事を奪ってしまい、また技術の高さゆえに生活を圧迫するような事態は何とも皮肉な現象としかいえません。ただ「技術革新と雇用削減のジレンマ」は、非情なようですが時代の流れといえるのかもしれません。100年前イギリスに300万頭以上いたといわれる労働馬が、産業革命に象徴される、機械化や自動車の普及によって仕事を奪われたのと通じています。

かつてのイギリスの産業革命のように、人類のライフスタイルから価値観まで劇的に変えていったIT革命は、普及期を終え様々な分野で成熟期を迎えつつあります。

ここ数年のモバイル端末の発達は、時間や場所に捉われないビジネスの遂行を可能にし、遠からずオフィスワークの概念を大きく変えることになることでしょう。そして、更に2016年にはIoT(モノのインターネット)が黎明期を迎えるとされ、IT業界はさらなる成長を遂げようとしています。

しかし、需要が増大し続けるIT業界は、現在深刻な人手不足です。人類の生活をより便利にしたものの、多くの事務職員や工場労働者の仕事を奪ってしまったIT業界が人手不足とは何とも皮肉な話です。

IT技術者の不足は複合的な要因が絡み合った結果

なぜIT技術者の不足が深刻な事態となっているのでしょうか。理由は幾つかあって、原因をたったひとつだけと考えることはできません。問題の解決には、様々な要素を抽出し、複合的に捉える必要があります。

人口減少局面に入った日本人労働者の絶対数が減っている

まず第一に考えることは、人口減少局面に入った日本の、「働き手の人口が着実に減っている」現象です。

「団塊の世代」が引退し、新卒世代の人口は、現在主力の「団塊ジュニア世代」と比べその約6割に過ぎません。

IT業界は成長産業ですから、人材を喉から手が出るほど渇望していますが、そもそも人材の絶対数が減っているのが現実であるために、なおさら「人材不足」感が増幅しているものと考えられます。

少なくとも東京オリンピック開催にともなう建設やインフラ整備の需要で2020年までは安泰であろうといわれる建設業界も今深刻な人手不足に悩んでいるそうです。労働のなり手不足は成長産業こそ受ける打撃は深刻なようです。

IT企業は「新3K職場」?業界全体の印象が悪くなっている

かつて、バブル全盛の時代に「きつい」「汚い」「給料が安い」職場のことを3K職場と呼び、特に日本の高度成長を下支えしたブルーカラー職業が忌み嫌われた風潮がありました。

バブルがはじけるとこうした声はなりを潜めるようになりましたが、現在ではIT業界に「きつい」「帰れない」「給料が安い」の新3K職場のイメージが定着しつつあります。

もちろん新3K職場という言葉は、不名誉なことこの上ありません。IT業界の名誉のためにいえば、実際の統計では、システムエンジニアの年収は「まずまず高い」といえる水準ですし、総じて残業時間も長いわけではありません。(「年収ラボ」より)

しかしながら、IT業界は、血気盛んな起業家が群雄割拠する世界、ベンチャースピリットあふれる新興企業が「喰うか喰われるか」の戦いを繰り広げています。

「喰うか喰われるか」の当落線上にいるIT企業であれば、悠長なことはいってられません。他の企業よりも良い仕事を行い、競争に勝つために、必然的に社員がきつくて帰れないと嘆く仕事量を押しつけてしまうことになります。また、競争の激化により仕事の単価が下がってしまい、結果的に給料が安くなってしまうという業界全体の悪循環はIT業界ではよく見られます。それらが積み重なれば、文字通り「新3K職場」に違いありません。

厳しい生存競争を生き残れるのは歴史を顧みてもほんの一部ですから、大部分は身を削る努力も報われずに敗れ去っていきます。敗れ去ってしまった企業で働いていた人からすれば、思い出したくもないブラック企業として記憶に深く刻まれるでしょう。

そして、ブラック企業という評判はITの発達によって尾ひれがついてあっという間に拡散されていくものです。昨今問題になっているフェイクニュースのように、SNS上でうわさ話レベルのことがあっという間に事実のように広がってしまいます。

最近の学生は、ブラック企業という言葉に非常に敏感になっています。真偽が定かでないような話も、ブラック企業という評判があれば警戒して近づこうとしない人が多いのです。皮肉にもITの発達がIT企業が敬遠される大きな原因となってしまっています。

日本のIT技術者の地位向上が課題

IT技術は、ムダを省き効率性と生産性を高める現状においては人類最高のテクノロジーです。しかし、ネットが普及し、モバイル端末やIoTの発達によって時間や場所を選ばない仕事ができるはずなのに、会社のデスクに拘束されるワークスタイルが根強く残っています。数名しか発言さえしない会議にわざわざ時間と交通費をかけて一堂に会している会社も意外と多いのだそうです。

もしテレビ会議にしたらどれだけの費用が削減され、どれだけの時間が有効に使えるか、伝達事項があれば、重要度「高」でメール一本送っておけばどれだけ会議自体の数を削減できるかなどを考えたら、IT技術者ならそのムダを静観できないはずです。会議で一堂に会することで組織一丸のレベルを高めるというごもっともな言説も聞かれますが、少なくとも効率性と生産性を重視するIT技術者にはなじまないのです。優秀なIT技術者を外資系企業に奪われてしまうのもこうした日本的なワークスタイルにあるのかもしれません。

また、IT業界にも、高額な案件は大企業が独占し、「下請け・孫請け」といった建設業界や広告代理店のような構図が成り立っていることも、優秀なIT技術者に見切りをつけられる原因ともいわれています。大きな金額が動く案件でも、利潤の多くを大企業が独占し下請け・孫請けには幾ばくも入ってこないということが少なくないそうです。技術者であれば仕事の相場は把握しています。しかし、手元に入る収入がスズメの涙ほどであれば、やる気をなくすのは当然です。

現在、建設業界ではマンションのくい打ち偽装が大きな問題になってますが、この問題を生み出したのは、下請け・孫請け構図が無関係ではないと思われます。優秀なIT技術者を確保し続け、かつ新たな担い手を育成するには、この「報われない」構図にメスを入れなければなりません。

ある調査によるとシステムエンジニア・プログラマーの平均給与は日本とアメリカでは物価の差を差し引いても約2倍もの差がついているそうです。

概してITエンジニアの地位が高く、大企業による寡占状態に歯止めがかかっているからこそ、GoogleやApple、Microsoftのようにベンチャーから世界的な規模にまで成長する企業が現れるのだと思います。このことからもIT技術者の地位向上は急がれる課題となっています。

これからの世界の在り方を意識してほしい

筑波大学の研究者である落合陽一氏は、21世紀を「魔法の世紀」と呼んでいます。確かに現時点でさえ、テクノロジーの進化によって、一個人の人間ができることが増え、それぞれが昔の人から見れば魔法使いのように映る時代です。これからテクノロジーはますます進化していきます。量子コンピュータやAIの進化は、人類を未知の領域に連れて行くでしょう。

ツイッターやフェイスブックのようなSNSの中にリアルな自分とはまた違う意識を持ち、その中であれこれと思いながら様々なやり取りをする私たちは、既に意識が肉体を凌駕した時代に暮らしているともいえます。しかしこれから更に私たちの意識はリアルを超えていきます。

ARやVRの発達によって、今では私たちの意識はSNSというステージしか活動することはできませんが、やがてバーチャルなもうひとつの肉体を仮想空間の中に持ち、音や触覚といった感覚さえバーチャルの中でリアルに知覚できるようになるかもしれません。いや、時代の流れは必然的にそのような時代を目指すでしょう。そうなると、リアルな私たちの肉体が暮らす世界とは違うもうひとつの世界ができることになり、私たちが認識する世界が膨張し、増えることになります。人類は宇宙を開拓しなくても、バーチャルの中にもうひとつの住みかを作り出すでしょう。

ただ、そんな世界は1人1人のIT技術者の毎日の仕事によるものでしか生み出されません。AIが勝手に世界を増やしていくわけではなく、世界の行方はIT技術者の手腕にかかっているのです。ですから今後IT技術者は減ることはなく、むしろどんどんと需要が増していくでしょう。そしてスキルの高いエンジニアだけでなく、あらゆるレベルであらゆる仕事が求められるようになりますから、スキルが高くない人でも少しずつスキルを上げていけば、段階的に難しいことに挑戦できるのです。

20世紀、主に建設業界の人たちによって製作された私たちが住む地球。21世紀の世界は、間違いなくIT技術者によって作成されていきます。そのように考えれば、IT技術者が十分に足りているという状況は今後も生まれないでしょう。誰も理想の満ち足りた世界に住んでいるわけではなく、誰もが満ち足りるまで世界の開発は止まることをやめないのですから。

最後に確認してほしいポイント

IT技術者の不足を深刻な問題として捉え、経済産業省は、アジア各国でITを専攻した学生を積極的に日本で受け入れる準備を始めています。グローバル化、ボーダーレス化もITがもたらす働き方のカタチではありますが、国内でも人口減による不足は補うのは難しいまでも、多くの改善の余地が残されているはずです。

日本人でさえ「ブラック企業」と敬遠する仕事を、外国人に担わせるのはいかがなものでしょうか。実は「報われない職場」であると気付いた瞬間に見切りをつけられるのが関の山です。現に、介護業界では既に技術を習得した外国人が本国へ帰ってしまう事態が頻繁に起こっています。まずは、内側からの改革、改善が先決なのです。

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