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IT技術者不足の背景にあるもの、多くの企業が抱える課題

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2017年02月08日

今さら述べるまでもなく、IT産業は右肩上がりの成長を続けています。まだまだ民間レベルでは実感は難しいものの、近年の景気回復傾向にともなって大企業を中心に情報システムへの投資拡大や、大規模プロジェクトが着々と進んでいます。

特に、2016年1月から始まるマイナンバー制度に対応すべく安全管理措置の必要からセキュリティー対策の強化が多くの企業の課題となっており、IT技術者は深刻な人手不足の状況に陥っています。

加えて、2016年は、IoT(モノのインターネット)が黎明期を迎えるとされ、日々進化するテクノロジーとは裏腹に、その進化を下支えする人材が足りなくなるという救いがたいジレンマに陥りつつあるのです。

今回は、そのようなIT技術者不足の背景について考察を加えていきます。

 IT技術者が不足する社会的背景

IT技術者が不足する社会的背景は、様々な要因が考えられます。第一は、少子高齢化がますます加速し働き手の人口が着実に減少していることが挙げられます。たとえば、2015年に新成人を迎えた人は124万人、「団塊ジュニア世代」のピークである昭和48年(1973年)生まれが成人した時代は207万人と20年余りの間に4割以上も減少していることからも、働き手の不足が深刻化していることが見て取れます。

第二は、「大学全入時代」と言われるように、受験圧力の低下と、かつて進められてきた「ゆとり教育」による理数系軽視の影響もあり理系離れが進んでいる傾向にあることも要因のひとつでしょう。そして第三は、IT業界の「きつい」「帰れない」「給料が安い」のいわゆる新3K職場のイメージが広がってしまい、かつて志望する学生が殺到し、高い倍率を誇ったIT業界も最近は応募者も頭打ちになっているようです。

人口減少局面に入っている日本においてはどの業界も人手不足が深刻化しつつありますが、IT業界は、設立間もない若いベンチャー企業も多いだけに過酷な労働環境を強いられる企業も少なからずあります。それが奇しくもIT革命によって普及したネットによってデフォルメされ拡散されている何とも皮肉な状態に陥っているのです。

IT技術者不足の背景にある企業側の事情

IT技術者の不足は、日本企業が業務システム等に関してスクラッチ開発(ゼロから開発すること)を好む傾向が強いことも原因として挙げられます。業務パッケージや開発ツールを導入すれば人もお金も時間お大幅に削減できるのにもかかわらず、それが一向に進まないのが現状です。

近年は、同業同士の合併や統合が盛んに行われていますが、最も大きな障壁となるのは、それぞれが独自に開発を行ってきたためにおきるシステム統合の問題と言われています。企業側の事情によって、本来別の業務に従事すべきIT技術者を取られてしまっているのが人手不足の大きな原因なのです。

企業側の事情によるIT技術者不足を解消するには、スクラッチ開発偏重の企業体質を改善することにあるのではないでしょうか。IT技術者の不足が深刻な問題であるならば、その原因の一端を担っている企業に問題意識がなければ解決は覚つかないでしょう。

シリコンバレーではIT技術者が高待遇

ことITに関しては残念ながらアメリカの後塵を拝している日本、ならばシリコンバレーの現況を見れば近い将来の日本が見えてくるかも知れません。

IT技術や様々な産業や技術と融合しアメーバの如くその裾野を広げています。また、ビッグデータやIoT、セキュリティーなど将来性のある案件には投資を惜しまないのがアメリカのベンチャーキャピタルの特徴で、近年その投資額が増大しています。

その投資の大部分が創業から間もないITベンチャーに流れているのです。このことから当然シリコンバレーでも人材不足は深刻です。しかし、IT企業は潤沢な資金をもとに破格の待遇でIT技術者を迎え入れ、優秀なIT技術者はプライドを満足させ、かつ報酬の良い仕事を求めて転職をする文化が醸成されているため、毎年何万人ものIT技術者がシリコンバレーに移住してくるほどになっています。

最近は、世界的に知られているIBMやHP、Microsoftなどの老舗企業から若いベンチャー企業へ転職するIT技術者が増加傾向にあります。これも、優秀な人材には報酬を惜しまないアメリカのIT企業の風土が、技術者の卵には魅力的に映っていることは確かなようです。

IT業界の「多重下請け構造」が発展の妨げ?

最近、建設業界で明るみになった不祥事は、下請け会社の不正な工事を発端としています。無論この不正は到底許されるものではありませんが、一連の報道からは元請企業と下請企業の絶対的な力関係の差を感じ取ることができます。

このような仕事の案件を、2次請け、3次請け、4次請けと仕事を下ろしていく「多重下請構造」は、建設業界ばかりでなく、IT業界にも既に定着しつつあります。IT業界における「多重下請構造」は、例えば、元請は要件定義や概要設計等の上流工程を請負い、開発・実装などの下流工程は2次請けに委託します。

2次請けは自社で開発を賄えない場合に3次請けやフリーランス等に一部業務を外注(再委託)、以下3次から4次、4次から5次を繰り返していく構図です。

このような場合、案件自体は高額でも、多重下請構造にあっては下位に行くほど取り分が少なくなることは火を見るより明らかで、上位との力関係に鑑みた場合、仕事自体は下位の下請け企業の方が過酷な条件を突きつけられていることは想像に難くありません。

こうした過酷であるのにもかかわらず一部の元請しか向かわれない構造の業界に人が集まりにくいのも頷ける話ではあります。この「多重下請け構造」がIT業界の発展を妨げているという声も多数上がっていますが、世界のトップを走るアメリカもかつては「多重下請け構造」であったと言われています。

アメリカの「多重下請構造」は90年代に崩壊し現在の形になったとされていますので、アメリカをロールモデルとしてきた日本も「多重下請構造」に風穴を開けるような出来事が起こるかも知れません。

最後に確認して欲しいポイント

日本情報システムユーザー協会の調査(2014年)では、主たるビジネスモデル自体がITなしでは成り立たない企業が4割を超える結果が出ています。

この傾向は年々増加傾向にあり、今やビジネスとITは不可分の関係にあると言えます。ならば、IT企業が採用を拡大し、社員教育を強化することによってIT技術者を養成するのが自然の流れですが、これまでのべてきた事情により今すぐ改善するのは難しいようです。

また、これだけ問題が深刻化すれば、国の経済さえも傾かせる恐れさえありますが、国策としてのIT教育は効果が出るまで長い期間を要するため、今すぐ効果を期待できるものではありません。

しかし、現状だけを見れば絶望的にも思えるIT技術者の不足は、転職や独立起業によってステップアップを目指すITエンジニアにとっては好機と捉える見方も少なくありません。

業界は深刻な人材不足、クライアント側はいくら金を積んでもIT技術者を欲しがっているまさに「超売り手市場」です。

絶対的に人が足りないゆえに、過酷な環境を強いられる場合も考えられますが、求人も比較的多く、希望する職種やポストに空きがあってその席に収まるチャンスも大きいでしょうし、何より「人手不足」というこの上ない不足条件が付帯している環境でプロジェクトを遂行することはIT技術者としてのスキルだけでなく、逆境をものともしないヒューマンスキルが醸成されることでしょう。

IT技術者の不足は、大きな問題ですがこれは個々のレベルでどうこうできるものではなく、また今すぐに改善できるものでもありません。

大事なのは、その問題をどのように捉え、どのように活動するのかということです。「人が足りない」ことを理由に現状を嘆くのか、自身を向上させるチャンスと捉えられるのかで後々大きな差が生まれてくることでしょう。

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