皆さんはRPAという言葉を聞いたことがありますか。RPA(Robotic Process Automation)とは、事務作業や経理処理などこれまで人間がオフィスでやってきた単純作業を全てコンピュータに代行してもらおうとするものです。
このRPAの導入により社会はどのように変わるのでしょうか。また、ITエンジニアはRPAにどのように関わっていくべきなのでしょうか。
RPAとは。導入で何が変わる?
まずRPAとはどういうもので、導入によって何が変わるのか。基本的なところから見ていきましょう。
RPAとはどういうもの?
RPA(Robotic Process Automation)とは、簡単に言うと、「人間が行なってきた単純作業を自動的にコンピュータに肩代わりさせるもの」です。
従来、人間が行なってきた経理処理や事務作業の中でもいわゆる「単純作業」と言われる仕事を、ルール化されたものとして整理した上でコンピュータを用いた手法で自動化します。
これによって、これまで人間が行なっていた業務が必要なくなる、効率化されるといった結果につながります。
ちなみに、同じようなコンピュータによる業務支援ということでは、AIやbotといったものもあります。これらもよく聞かれる手法ですが、それらとRPAとはどのように違うのでしょうか。
- RPA:ルールに基づいて自動化処理をするもの
- AI:膨大なデータを元に、コンピュータ自身が判断、行動するもの
- bot:人間の会話や行動をシミュレートするもの
人工知能と呼ばれるAIは、ビッグデータと呼ばれる情報をベースにしてコンピュータ自身が自分で判断し行動します。botは、人間の会話や行動をシミュレートするプログラムですが、RPAはそれらとは異なり、単純に人間がやっている仕事をルール化し、コンピュータでそのルール通りに自動実行させるといったものです。
したがって、AIなどに比べると導入についての難易度は下がります。
導入によって仕事がなくなる?
現在、企業や組織へのRPAの導入・検討が徐々に始まっています。では、もし企業にRPAの導入が行われた場合、どういった影響があるのでしょうか。
具体的にRPAが企業に導入されるようになると以下のような影響が考えられます。
- 単純作業は人に代わってRPAが担当するようになる
- 作業効率がアップし、生産性が向上する
これらは、一見して「人よりRPAの方が良い」ということにつながります。疲れたり、間違えたりする人と違って、機械は疲れないし間違えません。これまで人が行なっていた仕事を何倍ものスピードで休むことなく行うことが出来ます。
例えば、とあるRPAの製品では導入に500万円以上かかるものもあります。また、ソフトウェアですのでシステム保守も発生し、3年間の総コストで1000万円ぐらいかかってしまうかもしれません。一見高額ですが、1日8時間しか働けない人間と、24時間働けるRPAとでは、3倍の処理能力があります。しかも、休日は不要です。
同じ仕事の為に、年俸400万円で3人雇っていたとしたら、どうでしょうか。単純に考えて、RPAの方がコストパフォーマンスが良い、という考えになっても不思議ではありません。
もちろん、突発的な対応も柔軟に取れる「人間」が職場に居ることのメリットは多分にあると思います。それでも需要は確実にあり、RPAの導入を進める企業が今後増えていくと考えられます。
RPAって良いことづくし?
先の章でRPAの導入によってさまざまな影響があることがお分りいただけたのではないでしょうか。では、改めて導入によってどういったメリットやデメリットがあるのか見ていきましょう。
RPAのメリット・デメリット
RPAの導入によって発生するメリットやデメリットにはどういったものがあるのでしょうか。改めて整理してみましょう。
<メリット>
- 人ではなくRPAが担当することで生産性が向上する
- コスト削減につながる
導入により、コストを削減しつつ生産性のアップを実現することが出来ます。これだけ見ると良いことづくしのように思えますが、必ずしもそうではありません。
今度はデメリットについて見てみましょう。
<デメリット>
- RPAが利用できなくなった時のインパクトが大きい
- 業務がブラックボックス化してしまう
前者は単純で、RPAに依存することにより、RPAが動作しなくなった時に業務サービスが停止するリスクがある、ということです。
3人でこなしていた仕事で、1人、2人が休むことはあったとしても、3人同時に仕事が出来ない状況にはならないでしょう。しかしRPAに仕事を集約すればするほど、それが動かない場合は全ての仕事が一気に止まってしまう、ということです。
後者は、RPAに任せっきりのケースです。自動化が進み、年数が経過すると「自動化しているのがどのような業務か」という事もわからずに、「RPAシステムが動作しているか」どうかだけを確認するような状況になりがちです。
導入時の担当者も移動や退職でいなくなり、「どのような改善点があるのか、問題点があるのか」等の検討が行えない可能性が出てくるでしょう。
このように、RPAの導入をするだけで全てがうまくいく訳ではなく、運用をしっかりと検討する必要があります。
RPAは万能ではない
そもそも、RPAは「万能」というわけではありません。当然のことですがRPAにとっても苦手な分野、使えないケースがあります。それは例えば以下のような場合です。
- 考えて判断するようなルール化できない業務
- ロボットなどのハードウェアが必要な業務
例えば、AIが得意としているさまざまな情報をもとに考えて判断するような仕事はRPAには出来ません。また、RPAにはロボットのようなハードウェア機器が付いているわけではないので、そういったものを使うような業務を行うことも出来ません。ロボティック、という言葉が入っていますが、人型のロボットのようなイメージは払拭して下さい。
その代わりに、単純作業のようなルール化して自動で行うような業務はRPAの得意分野です。
例えば、毎月行う定例の経理処理や、伝票処理などもその一つです。
このように、RPAも万能ではなく業務によって向き不向きがあります。企業がRPAを導入する場合は、こういったRPAの向き不向きや特性を理解し、それが求めている目的に合致しているかどうかを検証することが大切です。
検討・導入時にはどう関わるべきか
企業がRPAを導入する場合、例えば以下のような流れで検討・導入を実施することになります。
- 既存業務の分析:どういった業務があり、自動化できるものはどのくらいあるのか
- 自動化方法の検討:どのように対応すべきか(AI, RPAなど)の検討
- RPA導入手法の検討:自社開発かソフトウェア等の購入か
※ここではソフトウェアを買うとします。 - ソフトウェアの選定:何を導入するかコスト・予算を考えながら検討します。
- 導入
- 試用期間
- 本運用
こういった一連の流れの中で、ITエンジニアは専門家として「自動化できる業務の選定」「方法の検討」「ソフトウェアの選定」から実際の導入まで多くの段階で主導的な役割を果たすことが求められます。
運用にはどう関わるべき?
実際にRPAが導入されると、企業での働き方が大きく変わります。先述の通り、これまで単純作業に従事していた労働者が削減されるといった動きが起こることも考えられます。
また、事務作業などもRPAにとって変わられ、大きく様変わりするでしょう。
そういった中で、RPAの運用やメンテナンスの重要性が非常に大きくなり、それに伴ってITエンジニアの仕事が企業の業務を行う上で非常に重要なものとなります。具体的には、以下のような仕事を行います。
- RPAの端末へのインストール
- RPAや導入機器のメンテナンス
- RPAの運用、トラブル対応
- RPA利用部門への教育
従来からITエンジニアはさまざまな社内システムの開発や運用に携わってきています。それに加えてこれらの業務をこなすことが必要となります。また、RPAは経理処理など企業経営で非常に重要な部分を占めている業務を自動化する可能性が高く、安定稼働の重要性はかなり高いと言えるでしょう。
また、RPAの運用担当者がいない場合や、RPAそのものが停止してしまった場合などの事態に対しても、どのように業務継続性を持たせるかを検討しておくことも大切です。
RPAが取引の際の経理処理や給与支払いの処理など企業経営上大切な処理を行うようになると、止まることで非常に大きな問題となるからです。
RPAを含めたITに対する姿勢
RPA以外の分野でも言えることですが、企業の中でITが占める役割は増す一方です。そのため、特に欧米企業などでは最高情報責任者(CIO)を置く企業が多くなるなど、IT戦略を今後の企業経営の根幹に据えるケースが多くなっています。
そういった中でこれまで人の手で行っていた事務作業をコンピューターで行うようになることで、さらにITが企業の中で大きな地位を占めるようになります。そのため、ITエンジニアは以下のような姿勢を持つことが大切となってきます。
- 企業経営全体にしめるRPAの重要性を理解しておく
- RPAの今後も見据えた企業全体のIT戦略を知っておく
今後はITエンジニアであっても積極的に経営陣に対して意見や提案を行なっていくことが必要です。逆に言うと、専門家として企業のIT戦略に対して、適切に意見や提案が出来るような幅広い視野と視点、また経営的な面でのものの見方が出来るようになることが必要です。
また経営側も当然そういった専門家の意見を取り入れる柔軟性が必要とされます。
フリーランスITエンジニアとRPA
フリーランスのITエンジニアの業務内容に、単純な仕事は殆ど含まれないでしょう。インフラ運用などの半自動オペレーション処理にRPAが導入される可能性もありますが、それもごく一部のため、そもそも、フリーランスITエンジニアの活躍するフィールドがRPAに取って代わるということはあまりないと言えるでしょう。
むしろ反対に、RPAそのものの開発の需要は今後高まり、RPAが活躍する場所を広げるための機能改修などの能力を身につけることで、フリーランスITエンジニアとRPAの相性は良くなるものと考えます。例えば情報システム部の正社員などは、RPAの導入検討や安定稼働などにその能力を使いますが、RPAを開発したり、カスタマイズを行えるようなスキルを身につけることで、RPAの分野でも需要を集める事ができます。
もしくは、RPA導入だけでは対応できないような、複雑な処理を簡単するツール作りや、システム間のデータ接続などに貢献するというのも良いでしょう。ユーザの直接的な要望ではないかもしれませんが、結果的には効率化を図り業務改善に繋がるものです。
ツール作成にしろRPAにしろ、人の作業を減らし、しいては人の役割を減らす事に繋がるわけですが、自分の仕事が無くなることを恐れて手作業に没頭するというのではあまりにもITエンジニアとして後ろ向きの発想です。それよりも、ユーザやその企業の課題解決に貢献して、自分の価値を高めたほうが「置き換えの聞かない存在」になるでしょう。
まとめ
最近、耳にすることが増えてきたRPA。RPA(Robotic Process Automation)は、従来は人が行なってきた事務手続きや経理処理、発注処理などの処理をコンピューターを使って自動化してしまおうというものです。
RPAの導入を行うことによって、企業には以下のようなメリットがあります。
- RPAが業務を行うことによる業務効率の向上
- 業務効率の向上による残業抑制
- 生産性の向上によって収益増が見込める
このようにRPAの導入を行うことで、いろいろなメリットがあります。基本的には「自動化による業務効率の向上」が直接的なものですが、そこから残業の抑制によるワークライフバランスの実現、残業コスト抑制、生産性向上による収益増などさまざまな2次的なメリットが出てきます。
しかし、その反面デメリットもあります。それはRPAに依存することのリスクや、業務のブラックボックス化といった面です。これらを解決するためにはRPAに対するリスクマネジメントの徹底が重要なことです。
フリーランスITエンジニアの仕事は、RPAに取って代わられるものではありませんが、むしろRPAの開発やカスタマイズ側の知識を身につけたり、RPAでは解決出来ない課題を技術力で自動化するなどの方法で、自らの価値を高めることを考えて下さい。