日本では二輪車も含め8,000万台もの自動車が道路を往来しているにもかかわらず、その構造まで詳しく理解しているのは、メーカーや整備士などの極々限られた人たちに過ぎません。
いざ、故障となれば素人にはお手上げで、彼らの力を借りるより他に手段はないのです。
ITの分野に関しても同様で、パソコンやスマートフォンが1人1台以上という時代となっても、システム開発や運用保守などを行うには高度な専門知識と技術が必要とされ、その責務はITエンジニアでなければ負うことができないのです。
「神は細部に宿る」という言葉のように、日用品にまで「ITの神」が宿ろうとしている昨今、時代の最先端の技術を扱うITエンジニアの必要性は留まることを知らず、人手不足やなり手不足が問題視されるようになりました。
このような時代にあって、IT業界では企業で培った技術を生かして独立起業するITエンジニアが他業種と比べ圧倒的に増えています。
しかし、数多くのプロジェクトと修羅場を経験し、高度な技術を習得してきたはずのITエンジニアがいざ独立すると思うように仕事を進められない、仕事が入らないというのは良くある話で、志半ばで夢を諦め会社員に戻ってしまったり、組織から離れていたがためにキャリアダウンを余儀なくされることも少なくありません。
周囲からは「腕の立つ人なのに残念」という声が聞こえてきそうですが、どうやら最大の原因は当人のITエンジニアとしての技量ではなく別のスキルにあるようです。
フリーエンジニアに求められるヒューマンスキル
独立起業するくらいですから、当人なりに腕に覚えはあるのでしょうが、会社勤めの時代に、モニターとキーボードだけが友だちだったようなエンジニアや、余りに分業が徹底していて隣席の同僚が何をやっているのか分からないようなエンジニアだった人は、独立後これまでの自分のやり方がまったく通用しないことに愕然とすることでしょう。
また、会社組織は、建前上適材適所の人員配置を行いますので、その分野に関しては突出した知識と技術を持ちながら他には何もできない、いわゆる「専門バカ」もその特性を生かし、短所を他の人員で補う形で全体最適を図っているのです。
ところが、仕事を取りに行く、もしくは仕事を依頼されるフリーエンジニアの立場にあっては、クライアントやプロジェクトメンバーとの信頼関係構築は成功のための絶対条件であって、そこには「人」対「人」との密なコミュニケーションは欠かせません。
従って、ありがちな「人と接するのが苦手」なITエンジニアは、専門技術が世界最高レベルの人でもない限りは、独立にあたってイの一番にヒューマンスキルに磨きをかけなければなりません。
決して格好いいとか、スマートな必要はありません。人の気持ちを受け止め、自身の思いを素直に伝える所謂ヒューマンスキルは、意識して訓練することで十分身に付けることができるのです。ヒューマンスキルは、エンジニアとしての更なる向上を目指して独立したあなたの腕を存分に発揮する環境をつくる強力な味方となってくれることでしょう。
それでは、ここでフリーエンジニアに求められる5つのスキルを挙げていきます。
※参考サイト:フリーエンジニアが、プログラミング以上に身につけるべきスキルとは(ポテパンフリーランス)
コミュニケーション能力
ヒューマンスキルの第一に挙げられるのがコミュニケーション能力です。クライアントの思いを汲み、要件を提起していくのも、プロジェクトにあって情報共有や連携を図るのもコミュニケーション能力があってこそ。
「報告、連絡、相談」がきちんと機能していることでプロジェクトは回りだし、問題発生後も迅速な解決を図ることができます。IT業界にあってもクライアントもプロジェクトメンバーも人間同士です。密なコミュニケーションと信頼関係の構築こそがプロジェクトを成功へと導くのです。
自己認識能力
ITエンジニアだからといって全ての知識や技術に精通しているわけではありません。得手不得手があり、強みと弱みがあります。
ですので、自分自身の強みを正確に理解し、自分はITエンジニアとして何ができるのか、どのようにして役に立てるのかを澱みなくアピールする術を身に付ければ、強みとする分野の案件は自ずと回ってくるようになりますし、期待通りの仕事をやり遂げ次につながる信頼を勝ち取ることができるでしょう。
案外自身の強みは自分では分かり難いものなので、エンジニア仲間やエージェントからの助言を参考にするとよいでしょう。
上流工程への理解
今、人手不足が深刻でクライアントが喉から手が出るほど欲しがっているのは、上流工程を確実にこなすことのできるエンジニアであり、当然のことながら高い報酬を手にすることができます。
フリーエンジニアとしてステップアップを図るのなら付加価値の高い上流工程への理解は避けては通れません。上流工程は、エンジニアとしての技術的スキルのみならず、クライアントとの折衝や業務分析など、その業務に熟知することや高度なコミュニケーション能力も求められます。
マーケット感覚
IT業界ほどトレンドの浮き沈みが激しく、技術革新のスピードが速い業界はないと言っても過言ではありません。フリーエンジニアであるからこそ、トレンドに対して広くアンテナを伸ばし、市場でなにが求められているのかを理解する力が必要なのです。
すなわち、常に時代の流れを把握し、自身を変化させていくことができる感性が「マーケット感覚」であり、その刃を常に研ぎ澄ませていることが求められます。自分の人生は自分自身の腕で切り拓かねばならないフリーランスは、フリーランスであり続ける限り学ぶことを止めてはならないのです。
品質担保能力
担当した業務には全面的に責任を持ち、不測のトラブルに対しては自らの手で解決する対応力が必要です。システム構築はむしろ設計図通りにはいかないことが常で実装しなければ分かり得ないトラブルの芽も少なからず存在します。
エンジニアとしての真価が試されるのは、仕事を成し遂げたこと以上に、むしろトラブルに対峙するときの姿勢であり、ここで「現場の対応力」を発揮することがクライアントからの信頼、ひいては次の案件獲得につながっていくのです。
強者が群雄割拠するフリーエンジニアが生き抜くための営業術
フリーランスの活躍の場が増えてきたとはいえ、まだまだ企業間取引が主流の日本の商習慣にあっては、フリーエンジニアの仕事は限られたパイを奪い合う様相を呈しています。
また、野心と己の腕に対する自信がみなぎる強者が群雄割拠する中を勝ち抜くためには営業活動は欠かすことができません。しかし、営業活動が大切なのは分かるけれども時間も資金もかけられないのが正直なところです。
だからと言って、かつての薄型テレビの低価格競争で技術的優位を誇ってきた日本の電機メーカーが苦境に立たされたように、安請け合いの消耗戦に突入してしまったら多勢に無勢で、フリーエンジニアは瞬く間に叩きのめされてしまうことでしょう。
まずは、フリーエンジニア向けのエージェントに登録して紹介を受け、ひとつの仕事を経験することから始めてください。まずは経験することでフリーエンジニアの仕事の感触が肌で感じることができるはずです。ここでいくつかの成功体験を掴むこと、これが自信へとつながっていきます。
そして、現在は無料のブログやウェブサイトのテンプレートも良質なものが出回っていますので、自身の持っている技術やノウハウをアピールしていきます。定期的な更新を心掛けていれば、あなたの技術やノウハウが読者の求めているものならば、必ず検索してでも探し当ててくれるようになります。
ウェブを使った営業は基本的にはお金がかからず、しかも24時間365日営業をしてくれる優れもの。利用しない手はありません。
このようにして、仕事を得ていく可能性を徐々に増やしていけば、次の段階は受注した仕事でクライアントの信頼を勝ち取り、リピートや紹介につなげていくことでチャンスを拡大していきます。
得られた仕事を一過性の出会いにすることなく、得意先へと関係を発展させていくために必要なのは後にも先にもこれまで述べてきな「ヒューマンスキル」に他ならないのです。
最後に確認して欲しいポイント
フリーランスを志すならば、相応の技術が必要とされることは言うまでもありません。独立の意思が芽生えるのは、企業で数多くの経験を重ね、研鑽努力によって腕を磨いた自負があるからこそですから、その能力を否定する人は誰もいません。
しかし、フリーランスで成功を収めるには、技術以上に営業力と顧客やプロジェクトメンバーの心を揺さぶり、心を許すほどのヒューマンスキルが必要なのです。
テクノロジーの最先端を行くIT業界だからこそ、人とヒトとの心のキャッチボールが重要視されるのです。