歳を重ねるごとに、時間が過ぎる体感速度が速くなったように感じませんか?これは一説によると、5歳児にとって1年は人生の5分の1(20%)、20歳の青年にとって1年は人生の20分の1(5%)、50歳にとって1年は人生の50分の1(2%)であることから、年齢という分母が増えるほどに1年の重みが小さくなっていることに起因するのだそうです。
社会人になるとき、自分が定年退職を迎える瞬間など余りに先のことで想像だにできなかったかも知れませんが、定年までのタイムリミットは、時間を重ねるごとに体感速度を増して刻一刻と近付いてきます。そしてその瞬間を迎えたとき、異口同音に「あっという間だった」という惜別の辞を残して会社を去っていくのです。
ある日、都内の大企業が入居しているビルのエレベーター内でこんな会話がありました。筆者と乗り合わせたのはいずれも50代後半と思しき男性で、一人は頭頂部が薄く高血圧が心配されるほど肥っており、もう一人は真っ白になった頭髪に顔には深く皺が刻まれ、幾分ほっそりとした体つきからは「病み上がり」かなと思えるほどに覇気が感じられませんでした。この二人は、かつて苦楽を共にした仲間で、何かの集まりでこのビル内に集まることになり、何年か振りにエレベーターで再会したような面持ちでした。
「○○さん。お久しぶりです!」
「▲▲、久しぶりだな。随分痩せたな」
「はい、先月まで入院しまして…」
「▲▲、お前、あと何年だ?」
「あと4年です。○○さんは来年でしたっけ?」
「ああ。思えば『いい時代だったな』」
「若い子たちは可哀想ですね」
とまあ、こんな体の会話でした。二人は会話が弾んだままエレベーターを降りていきました。エレベーター内で会社の話をするのは感心できませんが、久しぶりの再会で気が緩んだのでしょう。
間違いなく言えることは数年のうちに二人は会社を去り、第二の人生が始まります。今の時代「老後」と言うのは失礼かもしれませんが、この年代の人たちの多くは、これからの人生、退職金と年金をベースとして生活をしていくのです。平均寿命が80代後半にまで達すると、定年から見れば長い長い老後になりそうですが、今リタイヤを迎える世代にはあまり危機感は感じられません。
それは、先の『いい時代だったな』に象徴されるように、日本経済が右肩上がりの時代の真っただ中にいたため、賃金のベースが高く、年金も満額支給されますので、現在の若い人たちよりも遥かに良い条件で老後を迎えられるからではないでしょうか。いわゆる「逃げ切り世代」と呼ばれるギリギリの年代にあたります。
そもそも、入社から定年を迎えるまで40年余りも会社が存続していること自体が、今の時代極めて稀有な話で、多くの企業が、「退職者を輩出したことがない、想像が付かない」、「定年まで社員を抱え込むほどの体力がない」というのが本音ではないかと思います。
厚生労働省が発表した平成25年度就労条件総合調査結果によると、退職金制度を設けている会社は75.5%で10年前の86.7%と比べ11.2ポイント減少しており、終身雇用制度の崩壊とともに、退職金制度も縮小しつつあることを読み取ることができます。
加えて世界に例を見ないほど急速に進行する少子高齢化と人口減少は、年金制度の担い手である若者たちに大きな負担をかけると共に、将来のシニア世代が受け取る年金が大きく目減りすることを意味し、社会保障の充実を名目とした消費税増税も焼け石に水に過ぎません。
様々な法律によって守られている会社員でさえ、現役世代は、退職金が少ないもしくは貰えないかも知れない。年金は大きく減額することが確実だと言われています。そうすれば、退職金は確実に貰えない、年金は国民年金の一階建てであるフリーランスの老後はもし何もしなければ辛い日々となることは想像に難くありません。
フリーランスなら「自分の老後は自分で守る」しかない!
「日本は社会主義国より社会主義的だ」と言われるように、何だかんだと言っても、国民の生命と財産を守るための手厚い保障が充実しています。一部分を切り取って「日本は世界に後れを取っている」という意見も少なからずありますが、トータルで見れば実に恵まれた環境にいると言っても過言ではないでしょう。
しかし、先に述べたように、今後退職金と年金で悠々自適なハッピーリタイヤメントを迎えることは事実上困難であり、何らかの手を打たなければ、フリーランスにとってはもっともっと金銭的に苦しい老後が待っていることは抗いようのない事実なのです。「国は何もしてくれない」のではありません、この件に関しては国はもう「なす術がない」のです。つまり、「自分の老後は自分で守る」しかないのです。
フリーランスの醍醐味は、何といっても収入増。これまでの不本意な評価や「上納金」によって低きに甘んじていた収入が増えることは、エンジニア職の人間ならこの上ない喜びを感じるはずです。しかし、その収入は会社勤めの時代の振込額と同じような可処分所得ではありません。
経費、社会保障費、税金を差し引いた残りが可処分所得、そしてさらに、退職金や老後の生活資金の足しにするための資金もある程度確保しておくことが必要になります。かつて「江戸っ子は宵越しの銭は持たぬ」が意気と言われた時代がありましたが、お金があるからと言ってそんな刹那的な生活をしていれば、老後の貧困、破たんは目に見えています。現代人は江戸っ子と比べて年老いてからの人生が驚くほど長いのです。
とすれば、フリーランスは、老後の生活資金を確保するために下記の2つの選択肢が考えられます。
(1).定年のないフリーランスの特性を生かして生涯現役を貫く
フリーランスは、定年がありません。生涯現役を貫けるところがフリーランスの魅力であり、それが理由でこの道を選択した人も少なくないと思います。働き続けられれば収入は途絶えませんし、生活に張りも出ますので、それこそ一石二鳥のようにも思えますが、加齢による心身の衰えは誰もが抗うことのできない現象であり、いつまでも健康で、フルパワーで働けるわけではないのです。
法人化して従業員を雇い入れ、自身の負担を軽減する方法もありますが、「名ばかりオーナー」でもない限りは、人を使う立場になるとまた、それはそれで悩みは尽きないものなのです。
(2).現役のうちから積立て、運用しておく
株式投資や不動産経営など資産運用の方法はいくつもあります。しかし、こうした資産運用に成功している人もいるけれども、それらの多くは元手が大きすぎたり、リスクが高すぎたりして、とても素人には手が出せない金融商品も多く存在します。
しかし、決して高額ではないけれども、フリーランスにとっては退職金に相当し、第二の人生を安心して歩き始めるために利用できるのが2-1.小規模企業救済制度と2-2.中小企業倒産防止共済(経営セーフティー共済)です。(参照サイト:個人事業主とフリーランスが退職金を得る方法は?節税効果も解説!)
2-1.小規模企業救済制度
個人事業主のための退職金制度として設立された制度で、40年以上の歴史があり、平成26年3月時点で123万人以上が加入。
制度の内容
- 毎月の積立金額は1千円~7万円で任意で金額を設定できる
- 積立金額(年最大7万円 × 12ヶ月 = 84万円)はまるまる所得控除対象で、確定申告時に「小規模企業共済等掛金控除」が受けられる
- 事業を辞めた時、退職した時、事業を譲渡したときなどに受け取ることが可能。任意解約も可。受け取り方法は一括受取以外に10年15年といった指定年数での分割も可能
退職金を自分で準備しながら、確定申告時に「小規模企業共済等掛金控除」も受けることができるため、銀行で積立貯金をするよりも好条件を期待できます。
個人事業主やフリーランスは、月や年度によって売上が大きく変わることがあるので、任意で掛金を設定できるのも魅力。
ただし、デメリットは、納付月数が20年未満の場合は元本割れし、12か月未満の場合は掛け捨てとなってしまいます。加入できるのは個人事業主か「小規模企業」です。小規模企業は従業員数20名以下が目安。
2-2.中小企業倒産防止共済(経営セーフティー共済)
「小規模企業共済制度」と同様。国が提供している共済制度。「小規模」と「中小企業」という違いはあるものの、個人事業主でも加入が可能。
制度の内容
- 毎月の積立金額は5千円~20万円で任意で金額を設定できる。ただし掛金の減額には正当な理由が必要
- 積立金額(年最大20万円×12ヶ月=240万円)は全額経費扱いとなる
- 40か月(3年4か月)以上の積立で掛金全額保証される
- 解約時の理由については問われない
最後に確認して欲しいポイント
「来年のことを言えば鬼が笑う」という諺は、将来の「予測不可能性」を言い得た先人の知恵に他なりません。しかし、そもそも退職の概念がないフリーランスに退職金はなく、年金を含む社会保障は人口減による原資の目減りによって、日本が奇跡的に大油田を掘り当てて資源大国にでもならない限り、間違いなく縮小します。
もしフリーランスが元気なうちに老後対策を行わなければ、間違いなく金銭的に苦しい暮らしが待っているでしょう。少なくとも、私たちは幼いころに大好きだった、気前よくお小遣いをくれるおじいちゃん、おばあちゃんになることはできません。
フリーランスになりたての人に、いきなり「老後対策を」と言うのは酷な話ですが、仕事が軌道に乗ったあかつきには、その分の幾ばくかを必ずリタイヤ後の資金として貯蓄・運用するよう心がけてください。