ITエンジニアを取り巻く環境
15~20年前までは「ITエンジニア35歳定年説」がありました。
これは諸説ありますが、
- 激務なので体力の問題
- 下請け常駐業務の場合は給与が頭打ちする問題
- 技術革新が比較的多い業界なので知識吸収力の問題
などが主な要因とされてきましたが、現在(2017年)になると、35歳定年説は世間で耳にすることも少なくなりました。
この背景には、現在のITエンジニア不足が大きな要因として挙げられます。以前は、ITエンジニアを志す人を増やし、育てようという土壌が今ほど無かったため、ごく一部のコンピューターリテラシーの高い人間だけの業界となっており、そもそも、ITエンジニアの絶対数が少ないのです。
また、少ないからと言って、全てのIT人材が重宝がられ、希少価値がある、というわけでもありません。「下請け常駐業務の給与問題」や「技術革新への知識の問題」は解決された訳ではなく、一部では放置されたままとなっており、これは日本国内のIT業界全体が抱える問題ともいえます。
ちなみに、国内のITエンジニアは約116万人※いるとされています。全職種合わせた就業者数が、約5,800万人なので、日本国内の就業者の約2%がITエンジニアということになるでしょう。
※ IPA IT人材白書2017より
さらに、この116万人の就業先を見てみると、
- 約75%(88万人)が「ITエンジニアやITサービスを提供している”IT企業”」
- 約25%(28万人)が「製品や他のサービスを提供している”ユーザ企業”」
に分かれます。
いわゆるIT企業というと、FacebookやTwitterなどのSNSサービスを提供する企業を想像する方も多いと思います。もちろん、国内でも自社サービスを提供している企業も多数ありますが、ITエンジニアが働く企業の多くは、SIerなどのITエンジニアの技術力そのものを提供する企業で、提供する方法の一つとして顧客企業へ常駐し働く形態が多くなっています。
また、このようなITエンジニアを提供する企業の数は日本国内に約3万社あると言われており、少し乱暴ですが平均すると1社あたり29人(88万人÷3万社)程度が働いています。
つまり日本のIT企業の多くは「小規模のITエンジニア提供企業」ということになります。そして、これらの企業が生み出す多重請負構造により、日本のIT業界が抱える大きな問題が潜んでいます。
多重請負構造がITエンジニアをダメにする場合もある
たとえ小規模の企業だとしても、競合他社に負けない技術や業種ノウハウ、問題解決する手段などを持っている場合は顧客へ付加価値を提供することができ、顧客と対等な立場で取引をすることができるでしょう。
例えば、
- 自社オリジナルの強みを作っている。
- 社員の付加価値を上げるための適切な教育を実施している。
- 市場価値を上げるため顧客選定をしている。
などの取組みをしている場合は、大きな問題にはならないはずです。
しかし、以下のような企業も少なからず存在します。
- 営業組織が弱く、多重構造の下部でしか仕事が取れない。
- そのため、顧客と対等な立場で会話することが出来ない。
- 結果、言われたことしかしない(してはいけない)下請け業務が主体となり、同業社や顧客に対してIT人材を提供するだけという状況を生み出す。
結果、そこで働くITエンジニアには、以下の問題が発生します。
- 投資をするための利益を稼げないため、教育などが後回しになる。
- 顧客(常駐先)に依存し、場当たり的な経験しか積めない。
- 付加価値が提供できないため、単価・給料上がらない。
スキルアップには会社の協力も不可欠です。自社のITエンジニアの技術力を武器に事業をしているのですから、技術力の強化を図るのは当たり前の事なのです。しかし、自社のIT人材に対して、何の取り組みもしていない企業で働く場合は、結果として、35歳定年説が発生してしまうことになります。
「人財がわが社の宝です」と書いている割には、飲み会や旅行以外にお金を使わないという企業も存在します。皆さんの企業はいかがでしょうか。
ITエンジニアのキャリアに必要なスキルとは
また、ITエンジニアのキャリアをつくる構造も変わってきました。
昔は、プログラマから設計などの上流工程を担当するシステムエンジニア、そしてプロジェクトを管理するプロジェクトマネージャ(PG→SE→PM)という職種を上流へ移していき、給与と職位を上げていくキャリアパスが存在しました。
現在では、各職種の専門性が確立され、プログラマでも上級であれば年収1,000万円が実現できるようになり、プロジェクトマネージャでも初級(アシスタントマネージャ)は年収300万円~というケースもあります。
重要なのは、プログラマに必要なスキル(知識、経験)とプロジェクトマネージャに必要なスキルは、そもそも違うものだということです。
PG→SE→PMというキャリアパスは余程、会社や自分自身で努力しないことには成立しにくいものと言えます。
プログラマにもアシスタントレベルからシニアまであり、プロジェクトマネージャも同様で、今後専門職化が進んでいくと、より各職種のプロフェッショナルが求められてくる可能性があるでしょう。
さて、ITエンジニアのキャリアを考えた時に、重要な要素とはどんなものでしょうか。プロジェクトの目的に忠実に、「指示通りに言われたことを完璧にこなす能力」があれば良いと考える人もいます。確かに期待に応えることは重要です。
しかし、平たく言えばそれは、「言われた通りのことをする」だけとなってしまいます。オートメーション化などの定形自動処理が今後進化を遂げていく現在では、もう少し、必要とされる人材となる事を考える必要があるでしょう。
例えば、
といった要素です。
「知識」だけでは理論的な話やあるべき姿が強くなり、「経験」だけだと体系的なものや俯瞰した考え方が足りなくなる傾向が出てきます。また開発プロジェクトは同じものは1つとして無く、つねに様々な環境下で発生しているため、それに対応できる「応用力」も求められます。
最初のターニングポイントは30代前半。。。過ぎてしまった今でも出来ること。
IT業界は一般の方からすると難しい職業と思われがちですが、意外に入口は広く、未経験の方でも興味とやる気次第で就職することが可能で、これは余程特殊な職業でない限り他業界と同じです。
そしてIT業界にもコンサルタントやプリセールス、システムやアプリの開発、インフラ設計構築など多様な職種があります。
またIT企業と一口に言っても、システムインテグレートやコンサルティング、製品やサービス開発など多くあり、IT業界で働いてITエンジニアになるにも情報が多いため、業界のことや将来のことを深く考えずに働き始める方も少なからずいると思います。
それでもITエンジニアになって、やりたいことが見つかった人は、そのために必要な知識や経験を積める環境に身を置けばよいですが、環境がない、もしくはやりたいことが見つからない場合は、年数が経つに連れ、将来の不安が増していくこともあるでしょう。
働き方は人それぞれです。技術力に強いエンジニアやコンサルタントになりたい人や、仕事内容はあまり重要でなく、会社へ就社して出世したい人もいるでしょう。それ以外にも、とにかくお金を稼ぐ手段として働き、たまたまIT業界で働いている、という人もいると思います。
しかし、生涯をITエンジニアとして過ごしたいと考えているのなら、もっと自分の置かれている状況を考えるようにしてください。なぜなら、ITエンジニア35歳定年説はなくなっても、次は45歳や50歳定年説になる可能性は十分にあり得るからです。
先述の通り、会社に必要な強みをつくることや社員を戦略的に育てる教育などに投資をしていない企業で働くITエンジニアの方は、45歳以降に給与が上がらず、加齢と共に、仕事自体がなくなるリスクが上がっていきます。
さらにITエンジニア常駐モデルとした特定派遣を主業務としている企業の場合、経過処置含めても、平成30年9月までに一般派遣業の許可を得ることができない企業は、廃業になる企業も出てくるでしょう。もうあまり猶予がないのです。
仮に自社が廃業となったとしても、実際には常駐先には仕事があるわけで、そこで再雇用してもらえるかもしれない。そう思っている人もいると思います。もちろん実際にそうなるケースもあるでしょう。
しかしながら、常駐先の顧客責任者やチームのリーダーがより若年化している今では、メンバーとなるパートナーの開発要員は、年上の方よりも、同年代もしくは年下の方がやりやすい、と感じることもあります。また、加齢による体力の減少を気にされることも否めません。
雇用の条件として、年齢を加味しないのは当然ですが、ここで述べているのは事実上の話です。
生涯ITエンジニアとして生きていくための心構え
それでは、生涯ITエンジニアとして生きていきたいと考えている人が、自分で道を切り開くためにはどうすればよいのでしょうか。
弊社が考える、ITエンジニアとしての心構えは以下です。
- IT業界のトレンドを常に注意深く情報収集する。
- 社内価値ではなく市場価値をつける努力をする。
- 所属している会社の将来性を含め見極める。
この3つは少なくとも30代前半ぐらいまでには意識をし始め、行動することが必要です。
1.に関しては言わずもがなですが、常に求められる人材となるためには必要なことです。
2.も目的としては同じことです。今現在、正社員でない場合は、市場価値については常に意識する必要があります。
3.はいわゆる”IT企業”で働く正社員向けの心構えですが、もう少し具体的に述べるとするならば、「会社が成長をするために試みていること」と、「そこで働くITエンジニアへの処遇」を把握する、ということです。
会社と自分が共に成長することで、共に市場価値が上がることが一番ですが、まずは何と言っても会社が成長するようなビジョンを描けているのか、また絵に描いた餅ではなく、成長戦略が実行されているか、是非確認してみて下さい。
人は環境で変わります。環境が悪い時は、自分がそれに合わせる事も必要ですが、振り回されてしまうぐらいなら、自ら環境を変えるということを検討して下さい。
働く環境を自由に選べるフリーランスITエンジニア
企業に雇用されずに、自分で参画するプロジェクトや仕事、報酬を決めて働くITエンジニアは「フリーランス」と呼ばれており、約6万人※いると言われています(※ IT人材白書2016より)。
さらに、企業へ所属(雇用契約)をしないと仕事に就けない、という日本特有の商習慣に従うために、派遣で働いているITエンジニアが約24万人います。
「参画するプロジェクトや報酬を自分で選択している」という意味では、この方々の一部もフリーランスに含まれるでしょう。
いずれにしても、IT企業やユーザ企業の中で発生したプロジェクト現場へ常駐して仕事を行っているため、契約単位で仕事をする、プロフェッショナルなITエンジニアです。
現在は、派遣で働く人も含め約30万人がフリーランスとなり、統計数値を見ると、正社員のITエンジニアは減少し、フリーランスの方は増えている傾向です。
昭和の高度成長期のようにがむしゃらに働くことや、専業主婦などの夫婦観も変わり、ワークライフバランスに代表するように働く価値観も変化しました。
また、日本政府も「多様な働き方」を推進していることや、終身雇用、年功序列なども比較的IT業界では少なくなったことも、フリーランスという働き方を選択する要因となったのだと考えます。
フリーランスになった目的や理由の上位3位※
※IT人材白書2016
ちなみに、クラウドソーシングサービスを利用するなどして、仕事を請け負い、自宅やカフェなどで作業をしている人もフリーランスに含まれています。
仕事を自由に選んでいる、という点では企業に常駐している人と変わりませんが、今のところ、生活できるレベルの収入を安定して稼げる人はごく一部の人で、今後さらなる発展が見込まれている働き方と言えるでしょう。
企業に常駐するフリーランスITエンジニアを支援するエージェント
2017年現在、フリーランス人口が増えるとともに、働き方を支援する企業やサービスも増えています。
代表的なものでは、営業を支援する「エージェント」と呼ばれる企業や、クラウドを利用した安価な契約書や見積書などの発行サービス、会計ソフトなどが挙げられますが、まずは仕事を探さなくては何も始まりませんので、ここではエージェントについて簡単にご紹介します。
フリーランスを始めるにあたり、どこかの企業に常駐しプロジェクトに参画したいと考えていても、直接フリーランスとの契約窓口がある企業はそう多くありません。
そんな時に頼るのがエージェントです。自分のスキルや希望に合わせた仕事(案件、と呼ばれます)を紹介してもらい、仕事を開始し終了するまでフォローしてくれますので、フリーランスを始めたばかりの人には特に心強い味方と言えます。
また、エージェントはITエンジニア常駐型のサービスのプロフェッショナルとして、ITエンジニアの保有スキルに対しての市場価値情報を持っています。サラリーマン時代は会社から評価され、給与が支給されていたでしょう。その評価は、会社の業績、評価者である上司との人間関係なども少なからず影響していると思います。
これはメリット、デメリットはありますが、純粋に個人が保有する知識や経験などで現在の市場価値を提示するエージェントは会社特有の評価バイアスがかからないことや、専門の営業やコンサルタントが常に多数の企業へ案件確保のために活動しているので、希望を踏まえた仕事を紹介してもらえることもエージェントを利用するメリットと言えるでしょう。
保有している案件の数も、特定の企業間だけで行われる取引とは違い、希望の金額や勤務地、様々な仕事内容から選ぶことができます。
当社では多くのフリーランスの方とお話をしておりますが、「なぜフリーランスになったのでしょうか」「フリーランスの良い所はどこでしょうか」と言った質問をさせて頂くと、やはり「収入が社員時代より良いから」という意見や「仕事を選べるから」という意見を多くいただきます。
反対に、フリーランスのデメリットとして感じる事は?という事も合わせて伺うのですが、「仕事の空きが出ることが不安」という意見や、「一人なので仕事の範囲が限られている」という事が挙げられていました。
会社員であれば仕事や報酬、人間関係に不平・不満があったとしても一定の給与は保証されますが、フリーランスは、顧客へのパフォーマンス次第では仕事が無くなる=収入がなくなるリスクがあります。会社がやってくれていた営業や経理処理なども自分でやらなくてはいけません。
結果、自分で決める事や、やらなくてはいけない事が会社員時代より多くなりますが、それでもフリーランスで働く人が増えているということは、それだけ魅力的な働き方だ、ということが言えるでしょう。
さいごに
いかがでしょうか。少々トゲのある書き方をしたかもしれませんが、これが日本のIT業界の現状と、そこで働くITエンジニアが抱える将来的なリスクです。
もう一度、おさらいをすると、
- 日本のITエンジニアの働き先として、約75%(88万人)が「ITエンジニアの技術力やITサービスを提供している”IT企業”」
- そのIT企業の殆どが、小規模なITエンジニア提供会社で、そこで働くITエンジニアには、今でも35歳定年説が存在する。
- 生涯ITエンジニアを続けるためには、まずはIT業界のトレンドを注意深く情報収集しつつ、自らも社内価値ではなく市場価値をつける努力が必要。さらに所属している会社の将来性を見極めることも重要。
- 結果、今の会社に不満や不安を感じたのであれば、環境を変えることも検討。今増えている、「フリーランス」という働き方を目指すのであれば、専門のエージェントを活用すると役に立つ。
皆様のITエンジニアとしての今後の生き方に少しでもお役立てできると幸いです。